Seminar reportセミナーレポート
’16 4/9,10(土,日)『顎関節症ライブ実習コース』が開催されました①
こんにちは。
IPSG事務局、稲葉由里子です。
4月9日,10日(土,日)『顎関節症ライブ実習コース』が開催されたのでご報告させていただきたいと思います。
『顎関節症ライブ実習コース』では、実際に顎関節症で困っていらっしゃる患者様をお呼びし、問診から治療まで、すべて先生方の目の前で、デモンストレーションいたします!
KaVo社のPROTAR evo 7 咬合器、フェイスボー、ARCUSdigma2下顎運動測定器、を用いた咬合診断システム化により、確実な原因を探すことができます。
咬合からのアプローチで顎関節症を治療する実習はIPSGでしか行っていない、非常に貴重なセミナーです。
最近は、顎関節症と咬合は関係がないという風潮があります。
顎関節症は触らない方が良い、咬合調整をしてはいけないと言われています。
しかし、それは学問を止める事。
と稲葉先生は言います。
インレーやクラウン、先生方は日常的に沢山歯を削っています。
顎関節症だけ削ってはいけないと言うのはいかがなものでしょうか。
削ると言っても、ほとんどが修復物、そして天然歯においてはほんのわずかです。
咬合診断を行えば、顎関節症の治療は非常に単純な事が多いです。
1本のインレーでも、4分の1顎のような小さな咬合器ではなく、全顎の咬合器に付着して製作することで、歯科医師、歯科技工士が顎関節症の発症を未然に防ぐこともできます。
IPSGでは20年間、咬合からのアプローチで顎関節症の患者様を治してきました。
ぜひ、2日間じっくり勉強していただきたいと思います。
今回、患者様としてご協力いただいたのは、私の友人です。
実は、昨年のライブ実習の模様をFacebookで見ていてくださって、次は私もお願いしたい!と思ってくださっていました!
メールで症状を聞いてみたところ・・・(ライブ実習当日にお越しいただくので、事前情報はメールのみです)
・症状は口が大きく開かない。
開ける時にはくの字に開きます。
顎がカクッてなるので、歯医者さんの友達に聞いてみたところ、
顎関節症?と言われ、ひどくなると開かなくなると聞いてビクビクしています。
口を開く時、意識せずに開けた事が記憶にない感じです。
・犬歯が下の歯の形に削れています。
主人の話、母の話を総合すると、子供の時から歯ぎしりがひどいようです。
一度、歯科でリテイナーを作りましたが、メンテナンスできず放置です。
・顔以外の気になるところは、腰痛が徐々にひどくなり、2週に一度以上、マッサージに行っております。
・偏頭痛があったこともありますが、この2年ぐらいはない気がします。
ということでした。
レントゲン写真です。
ひとつも修復物がなく、また歯周病もなく、大変綺麗な歯列をされています。
矯正治療の経験もありません。
顎関節症の原因として、インレーやクラウンなどの修復物が関与することがありますが、それも今回は当てはまらないようです。
それでは、一体なぜ??
顎関節のレントゲン写真の診断の目安として、関節の変形がないかどうか、また円板に乗っているかどうかは、下顎頭と側頭骨の間に隙間があるかどうかをチェックします。
今回の場合、ぎりぎり隙間があったので、円板は脱落していないと診断しました。
姿勢を観察します。
瞳孔線や肩の高さの不均衡、指先の位置異常、脊柱の湾曲などを比べます。
筋触診の方法について、外側翼突筋を口腔内から触診する方法、胸鎖乳突筋の起始である乳様突起から停止の胸骨までの触診し、左右どちらに異常があるかを調べます。
顎の構造と、筋肉の付着位置を確実に頭に入れておく事が大切です。
患者様、とても緊張をされていましたが、現在の症状や悩みについて、先生方の前で沢山お話をしてくださいました。
クリック音の検査は、ドップラー聴診器を用います。
浅側頭動脈の血流を目安にそこから6ミリ前方に顎関節があります。
左右共に、かなり関節が傷ついた様な雑音が聞こえました。
雑音は、関節円板が傷ついている時に鳴ります。
これについては、2日目に詳しく解説いたします。
開口量は、28ミリ。
クローズドロックの状態だと20ミリ前後の開口量なので、ギリギリ関節円板に乗っているという状態だと思います。
患者様はご自分で開口制限をされており、思いっきり開けるのが怖いそうです。
上下の印象採得、フェイスボウトランスファーを行いました。
中心位を2枚、チェックバイトを左右それぞれ記録を採りました。
中心位は、ナソロジーの古い考え方で、現在はそのような考えは存在しない。
とお考えの先生がかなりいらっしゃるというのを先日、聞き大変ビックリしました。
また、季節や気温によっても中心位が変わる事があるから当てにならない・・・
などなど。
全顎治療、咬合再構成をするパターンにおいて、中心位が決められないと仕事をすることができないと思います。
季節や気温で変化してしまったら、いつまで経っても補綴物が完成できませんし、咬合器を使って技工士とやり取りをすることも不可能となります。
中心位が確実に記録できるようになると、臨床の幅が広がります。
そして、全顎治療に自信を持って取り組む事ができるようになると思います。
中心位という言葉を最初に使ったのは、ナソロジーの始祖の一人であるB.B.McCollumで、1921によって名付けられた用語です。
当初は中心位は下顎を最後方位押し付けたみ位置で開閉すると安定した軸で再現できることから、ここを中心位と定め、咬合を再現する方法を発表しました。
その後、ナソロジーではStuartらによってRUMポジションとして、最後退位を中心位として咬合構成を行なってきました。
しかし、1973年にCelensaによって最後退位で装着されたリハビリテーションの、予後の精度を計測した結果を発表しました。
それによれば、32症例の内,30症例に咬頭嵌合位とのずれが0,02〜0.36あったという報告がありました。
それ以後、中心位は下顎頭は前上方にある事が望ましく、関節円板の再薄部に位置する部が中心位として理想であることとなったのです。
この位置は、歯列とは何ら関係ありませんが、歯列の咬合状態が咬頭嵌合位の時、顎関節が中心位をとるのが理想であることから、咬合を中心位に導く方法が考えられました。
最も理想的な関係は中心位と咬頭嵌合位が一致することです。
これが『Point in centric 』です。
しかし、多くのケースで不一致であるとが多く、中心位で下顎を閉じて行くと、どこか最初に閉口路を邪魔をする接触があります。
これを中心位の早期接触と呼び、しばしば顎関節に悪い影響を与えてしまいます。
これが『Slid in centric』です。
そこで、これを調節するために咬合調整を実施します。
顎関節を安定させながら咬頭嵌合位を作ることが非常に大切です。
ナソロジーにおける中心位の概念の違いが弱点となってしまい、ナソロジーを否定される方がいらっしゃると思いますが、全てが間違っていたわけではありません。
ナソロジーは一度は学ばなければいけない大切な知識だと、稲葉先生はいつも皆様にお伝えしています。
上顎の模型です。
切歯乳頭から正中を確認し、ハーミュラーノッチの位置も見ておきます。
有歯顎のときの状態をよく覚えておくことが、総義歯の知識の参考ともなります。
という話もありました。
下顎の右側の8番はレントゲンを見てもわかるように水平埋伏智歯です。
7番の傾斜に何か原因があるということも予想する必要もあります。
フェイスボウトランスファーは歯科治療の際、診断と治療の基本になる作業です。
しかし、現実に一般の臨床で、この作業を行っている方はどの位いらっしゃるでしょうか?
おそらく10%に満たないのではと思います。
フェイスボウトランスファーは頭蓋の基準面を咬合器に付着する作業です。
したがって、咬合器の大きさも頭蓋と同じ大きさの物が要求されます。
ボンウィルの三角は一辺が10cmで成り立っていますので、顔面の幅で12cm程度の大きさが必要です。
フェイスボウトランスファーにより幅12cm程度の咬合器にトランスファーします。
歯列の三次元的位置を再現します。
すなわち、模型の付着位置を頭蓋骨に対し正確に位置付ける事が可能になります。
この様に付けられた模型により正確な診断と治療を行う事ができます。歯列の左右前後の傾き、スピーの彎曲、ウイルソンのカーブなどの診断が可能になります。
これは、顎関節症の診断と治療に大きな助けとなります。
両顆頭と、下顎の前歯の切歯点を結んだ三角をボンウィルの三角(10センチ)といいますが、最低でもこの大きさの咬合器でないといけません。
小さな咬合器では不可能です。
ちなみに、ボンウィルの三角と咬合平面(曲面)とのなす角はバルクウィル角(平均26度)ですね☆
天然歯の咬合湾曲には一般的によく知られているスピーの湾曲があります。
このスピーの湾曲は矢状面での咬合湾曲です。
さらに前頭面からみると、下顎の臼歯は舌側咬頭が頬側咬頭より低いため、あるいは舌側にわずかに15度ほど歯軸が傾斜しているために前頭面に湾曲ができます。
この湾曲は半径4インチ(10センチ)直径では8インチ(20センチ)の球体を下顎の歯列においた形になります。
(ちょうど、写真に映っている手鏡が、直径20センチの球体なので、参考になると思います♪)
これは、モンソンが提唱したモンソンの球面説といわれるものです。
モンソンカーブは一般に前頭面の面を言われていますが、矢状面、前頭面の両方で湾曲が生まれます。
したがって、通常モンソンカーブは前頭面のことを示しますが、スピーの湾曲と前頭面の両方の要素を持っています。これは、咬合様式を作る際に、大変大切な曲線です。
もうひとつ。
ウィルソンカーブは、何だったけ?
と混乱してしまうと思いますが、ウィルソンカーブはモンソンカーブと同じ前頭面からみたカーブです。
ウィルソンカーブとモンソンカーブは同じと考えていただいて構いません。
モンソンカーブとウィルソンカーブの違いは、モンソンカーブはスピーの湾曲の要素を持ち合わせていることです。
ということで、1日目だけで、盛り沢山な実習となりました。
明日は、咬合診断、リテイナー作りから始まり、ディグマによる記録、そして治療という流れになります!
▼レポート②はこちら
https://ipsg.ne.jp/gakuliveseminar201604-report2