Seminar reportセミナーレポート
’15 2/7,8(土,日)『パーシャルデンチャー・テレスコープシステム実習コース(2日間) 』開催されました
平成27年2月7日,8日
パーシャルデンチャー・テレスコープシステムの実習コース
レポート:歯科医師/佐藤孝仁先生
日本では数年前から、欠損症例に対し、義歯治療よりもインプラント治療を選択するブームがありました。
しかし、多くの先生方は、インプラントのトラブルなどの問題から、最近ではまた義歯の良さが見直されているように感じます。
今回は、パーシャルデンチャーの設計を基本から学びたい、クラスプデンチャーから解放されたいという歯科医師や技工士の先生方にとって光が見える実習になったのではないかと思います。
まずは、受講した先生方が普段どのように義歯の設計を行っているかを、実際の模型に書いていただきました。
学んできた知識がみなさん違いますので、全員が全員同じような設計にはならないかもしれません。
どこに何を設計するか、なぜそう設計するかという義歯の設計の原則というものが存在します。
その原則のもと、色々な設計になることはいいと思いますが、原則を無視し、バラバラな設計になるようではいけません。
今回の実習が終わる時までは、全員の受講生が義歯の設計の原則を理解して、義歯の設計が出来る様になっていただければと思います。
また、今回の実習ではドイツでは一般的な義歯であるテレスコープシステムについても学んでいただきます。
稲葉繁先生は1978年以降、テレスコープシステムによる診療を行うのと同時に、講演などもされてこられました。
テレスコープシステムにはいくつかのタイプがあります。
主なタイプとしては、コーヌステレスコープ、リーゲルテレスコープ、レジリエンツテレスコープです。
今回は、先ほどご説明した3つにタイプについての説明と、稲葉繁先生のもとで学ばれてきた、稲葉歯科医院の隣になる技工所ラボインテックの高木先生に技工のライブ実習をしていただきます。
初めに、稲葉繁先生にコーヌステレスコープの臨床の過去・現在・未来という題でお話して頂きました。
なぜ今、テレスコープシステムなのか。それは、多くの先生方が実感されていることだと思います。
インプラントのリスクが怖い、だからといってクラスプデンチャーでは頼りない、そういったことを臨床の中で不安に感じたことはないでしょうか。
また、歯科医師側だけでなく、最近ではインプラントが怖いから、義歯にしたいけれど、クラスプが付いているのは嫌だということで来院される患者様も多くなったように私は感じます。
また、IPSGの20周年学術大会でチュービンゲン大学のヴェーバー教授をお呼びして、ドイツでの歯科事情をお話して頂いたのですが、ドイツではリスクの高いインプラント治療だけで治療するのではなく、インプラントとテレスコープシステムを融合させた治療を行われているようです。
このように、ドイツでも日本でもテレスコープシステムは少しずつ進化しながら治療が行われています。
歴史は繰り返すと言いますが、それはまったく同じことが起こるのではなく、以前起こったようなことが現代風になってまた起こってくるのです。
つまり、日本でも昔テレスコープシステムが広まった時がありましたが、その後インプラント治療が流行し、そしてまたドイツなどでは昔のテレスコープシステムではなく、テレスコープシステムが進化をとげて再び注目をあびるようになったのではないでしょうか。
テレスコープシステムの種類、設計を始め、その歴史をきちんとお話して頂きましたので、初めてご覧になった先生方、今学んでいる最中の先生方にとって、テレスコープシステムについてより理解を深めて頂けたと思います。
技工士の高木先生のライブデモを行う前に、コーヌステレスコープの治療から技工手順の動画を見ていただきながら、製作手順について稲葉先生から最初からすべて教えていただきました。
この動画を用いた説明は本当に分かりやすく、テレスコープシステムを知らない先生でも理解できるものであると思います。
≪午後≫
午後は、技工士の高木先生のコーヌステレスコープのライブデモ実習です。
普通では分かりにくい、コーヌスの着脱方向の決定要素やネガティブリンケルの消し方等を、図を用いて分かりやすく説明して頂きました。
また、形成されてきた支台歯をラボサイドから再形成を希望しなければならないケースの説明や、その対処法も教えて頂き、ちょっとした部分を調整するだけで内冠製作が容易になるのでとても参考になります。
コーヌス製作の肝になるのは、やはりコナトアを用いたコーヌス角軸面調整であるといえます。
不潔域をいかになくすかを実際の模型を使ってデモして頂きました。
前歯部のネガティブリンケルを少なくするように基本の着脱方向として、その後コナトアに装着して臼歯部のリンケルを少しでも減らしていきました。
内冠のワックスアップをワックスシェーバーで削る際に、最低限の厚みを確保するためのアダプターを用いた方法や、ワックスミリングを実際にみることができました。
コーヌスクローネは使用する材料、機材も重要な技工分野であると思います。
そういった部分も高木先生の臨床と同じものを使用しているのでとても参考になりました。
内冠の研磨は、ディスク研磨機を用います。
このディスク研磨機は、以前稲葉先生がテレスコープの一連のシステムとして開発したものであり、ドイツでは今でもこの手法でテレスコープが作られています。
フリーハンドによるコーヌスクローネが流行してしまった日本では、あまり手に入らない機械となってしまったのがとても残念です。
コーヌスの維持力を規定通り発揮するには、ディスクによる均一な研磨面が必要不可欠です。
そのような手法もデモして頂けたので、とても貴重な時間でした。
参加された技工士の先生達は最前列で学ぶ事ができ、実際にディスク研磨実習をすることもできたので、良い経験ができたのではないでしょうか。
2月8日
7日は、テレスコープシステムの1つであるコーヌステレスコープについての講義とライブデモ実習で、実際の臨床手順から製作手順までを学んで頂きました。
8日は、午前中は稲葉繁先生の講義、午後からは再び、技工士の高木先生にリーゲルテレスコープのライブデモ実習、岩田光司先生の講義、そしてレジリエンツテレスコープの製作のライブデモ実習を行いました。
初めにコーヌステレスコープの内冠・外冠の維持力に関わる多くの検証について追加でお話いただきました。
内冠・外冠の作製の際の埋没材の混水比を変え、引き抜き試験を行うことで、どの混水比で製作すると、ゼロフィッティングするのか、適度な維持力を保てるかという検証された結果について学ぶことが出来たと同時に、内冠・外冠の精度に関わる他の多くの検証についても学ぶことができました。
細かい知識ですが、コーヌステレスコープ治療を行う上で、内冠・外冠の精度を維持することが命です。
このような知識のもと、歯科医師も歯科技工士も治療や製作にあたらなくてはいけないと思います。
次に、リーゲルテレスコープについてお話いただきました。
「リーゲル」というのはカンヌキのことです。
テレスコープシステムの歴史は、1886年にStarrによって行われた可撤性補綴物で、シリンダータイプのものでした。
そして、ドイツのチュービンゲン大学では1967年からすでにクラスプデンチャーは使われなくなったそうです。
リーゲルテレスコープもテレスコープシステムの1種で、その種類には回転リーゲル、旋回リーゲルの2種類あります。このリーゲルテレスコープによる治療は日本ではほとんど見られません。
回転リーゲルの構造、旋回リーゲルの構造はもちろんの事、製作法について詳しく説明していただきました。
また、講演の中で、固定性のブリッジと可撤性のリーゲルブリッジの違いについて質問がありました。
固定性のブリッジでできる事を可撤性のリーゲルテレスコープにすることのメリットは、清掃性の良さを主として色々とあり、その利点についてもお話いただきました。
稲葉繁先生のリーゲルテレスコープの長期症例などもご紹介して頂きました。
そのような長期症例があるということを踏まえても、とても素晴らしい治療であるということをご理解いただけたかと思います。
≪午後≫
高木先生に、リーゲルテレスコープの製作についてお話いただきました。
片側のリーゲルテレスコープの製作ステップについて、手順を追って説明していただきました。
特に、旋回リーゲルではどこに回転軸を置くか、リーゲルレバーの形や位置を間違えてしまうとうまくロックができなかったり、咬んだ時にレバーがあたり外れやすくなってしまったりすることがあります。
また、リーゲルテレスコープは支台歯に内冠・外冠の厚み分が加わりますので、歯科医師の先生方には特に支台歯形成の際の平行性はもちろんのこと、クリアランスや隣接歯との距離にも注意をしなければいけません。
今回のセミナーでは実際の作製ステップなどを図や模型を使いながら、実際にリーゲルのレバー部分の製作も行っていただいたので、歯科医師や歯科技工士の先生方にも分かりやすかったのではないかと思います。
次は、岩田光司先生にレジリエンツテレスコープによる実際の臨床症例を出していただきながら、レジリエンツテレスコープについて説明していただきました。
レジリエンツテレスコープは総義歯と同じように、粘膜維持支持負担です。
支台歯の内冠・外冠は基本的には把持効果として作用してきます。
つまり、横ブレ防止として働きます。
このレジリエンツテレスコープという方法は本当に優れた方法で、稲葉歯科医院においても多用される方法です。
レジリエンツテレスコープによる治療には総義歯の知識がとても重要になります。
そのため、今回の発表されていた症例においても、稲葉繁先生が考案された総義歯治療に用いる上下顎同時印象法を用いてレジリエンツテレスコープの製作を行っていました。
岩田先生によるレジリエンツテレスコープの講義の後に、高木先生にライブデモ実習を行っていきました。
レジリエンツテレスコープ製作のポイントについて、講義して頂きました。
レジリエンツテレスコープの内冠の1/2はパラレルに、1/2はテーパーをつけて製作します。
また、レジリエンツテレスコープは支台歯に支持を求めないということが最大の特徴です。
そのため、内冠と外冠には粘膜面の沈み込みの量程のスペースが確保されるように製作します。
この部分は実際に受講された先生方でないと良く理解できないところかも知れません。
これでテレスコープシステムのコーヌステレスコープ、リーゲルテレスコープ、レジリエンツテレスコープの3種類の治療ステップと製作ステップについて歯科医師と技工士の立場から説明させていただきました。
講義と製作デモを見る事でより詳しく具体的に学ぶことが出来たのではないでしょうか。
そして、最後に、パーシャルデンチャーを行う際の設計の方法について、稲葉繁先生に講義して頂きました。
もちろん、テレスコープシステムだけでなく、RPIクラスプデンチャーやクラスプデンチャーの設計の手順についても教えていただきました。
ちなみに、手順の一番初めに行う事は大切なアレの位置を決める事です。
これを初めに設計することがクラスプデンチャーには重要です。
アレってなんだと思われるかもしれません。分からない先生は是非、受講して頂ければと思います。
また、テレスコープシステム、クラスプデンチャー双方において大切な大連結子の設計についても講義していただきました。
この実習で、いろいろなケースの設計をきちんと学んでいただけたのではないでしょうか。
今回はパーシャルデンチャー、テレスコープシステムの実習ということで、テレスコープシステムのチェアサイドの面と技工サイドの面、義歯の設計など多くの事を学んで頂きました。
これからの歯科界ではインプラント治療はとても大切だと思いますが、一方、義歯治療もより一層求められる技術だと感じます。
また、インプラント治療とテレスコープシステムを融合した治療もドイツでは多く行われておりますので、是非一度、テレスコープシステムについて学んでいただければと思います。
稲葉繁先生をはじめ、技工士の高木先生、岩田先生、講義いただきありがとうございました。
また、受講された歯科医師、技工士の先生方も2日間有難うございました。
レポート:歯科医師/佐藤孝仁先生