Seminar reportセミナーレポート
’14 1/12(日)パーシャルデンチャーの臨床~パーシャルデンチャー設計の基礎を学ぶ~開催されました
こんにちは。IPSG事務局の稲葉由里子です。
1月12日のレポートは、佐藤孝仁先生からお届けします。
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明けましておめでとうございます。
昨年はより良く受講生の先生方に受講していただくために、IPSGの研修会室ができ、飛躍の年となりました。
今年も宜しくお願いいたします。
新年になって初めての研修会ですが、本当に多くの先生方に集まって頂きました。
※セミナーに参加できなかった先生方に向けて、IPSGでは、パーシャルデンチャーを学べるDVDを販売しております。レジリエンツテレスコープ、リーゲルテレスコープ、コーヌスクラウンなど、技工士を招いたデモンストレーションも収録されております。
※動画で収録内容の一部を公開しておりますのでご覧くださいませ。
▼DVD「パーシャルデンチャーの設計と製作実習コース」
https://ipsg.ne.jp/dvd-buy/#vol3
12日は「パーシャルデンチャーの臨床」、13日は「テレスコープシステムの臨床」というテーマです。
12日は、パーシャルデンチャーの基礎から応用までの知識を、稲葉繁先生により講義していただき、13日の午後はそのパーシャルデンチャーとインプラントとの融合という最先端の技術について、神奈川歯科大学・横浜病院インプラント科教授 林昌二先生により講義というプログラムです。
この2日間で、パーシャルデンチャーの基礎から最先端の技術までの知識を学べると思うと、かなりお得な研修会ではないかと思います。
特に、稲葉繁先生は大学の教授であったということ、国内外問わず多くの研修にも出られていたこともあり、その知識は膨大です。
そんな多く学ばれた中から、稲葉先生が一番という技術やお話をしてくださるので、基礎から応用まで学ぶということはとても意味があると思います。
また、林昌二先生はIPSGが20周年の記念講演『ドイツ最先端義歯とインプラントの融合』で講演していただく、H.ヴェーバー先生(チュービンゲン大学歯学部長、ドイツ最先端義歯技術の権威)のもとで留学された先生です。
林先生は、そこで学ばれた技術を日本で実践、普及に努めているすばらしい先生ですので、今回の研修会も目が離せません。
20周年記念講演のパンフレット
稲葉繁先生が以前、ドイツに留学され日本に帰ってきたとき、ドイツで学ばれたテレスコープシステムによる義歯と日本のコーヌステレスコープ義歯が全く違うことに驚き、ドイツで行われている正統派コーヌステレスコープや、それ以外のテレスコープシステムの義歯の知識を日本に広げなくてはならないという志のもと、今までIPSG研修会等でその普及に努めています。
パーシャルデンチャーの臨床という題ではありますが、まずはインプラントの歴史についてお話がありました。
驚くことに、1978年に稲葉先生は、シュルテ先生からインプラントをすでに学ばれていたそうです。
そして今日、インプラントは以前の技術からさらに発展を遂げ、パーシャルデンチャーと融合することにより良い経過を得られるということで、インプラントとパーシャルデンチャーを組み合わせた治療がドイツでは今では最先端技術となっています。
もちろん、組み合わせるパーシャルデンチャーはクラスプデンチャーのような義歯ではなく、ドイツで行われているテレスコープシステムによる義歯と組み合わせなければ意味がありません。
組み合わせるテレスコープシステムは日本式コーヌステレスコープではなく、やはりドイツ本国で行われている正統派コーヌステレスコープや他のテレスコープシステムによる義歯でなくてはなりません。
このシステムによる義歯ですとインプラントをあえてしなくとも長持ちは致しますが、インプラントをアンカーにすることにより義歯の沈み込みを抑え、それにより支台歯に負担が減少し、より長持ちする治療になります。
そもそも、テレスコープシステムとは、みなさんはコーヌステレスコープしか知らない方が多くいらっしゃると思いますが、たくさん種類があります。
主なテレスコープの種類はスライドにありますが、4種類あります。
稲葉繁先生の上顎がレジリエンツテレスコープ、下顎はリーゲルテレスコープの症例を少しご覧ください。
このような治療をすることにより、“健康寿命を延ばしてあげられるような治療”を、私達歯科医師はしていかなければいけないと強調されていました。
さらに、このシステムによる義歯治療は、清掃性がよくなり、さらには管理がしやすくなるなど予防的な効果も期待できます。
そのため、稲葉繁先生はきちんと治療しなくてはいけない場合は、歯科医師は最大限に介入し、それ以上口腔内が悪くならないような義歯治療をしなければならない。
そして、そういった補綴治療のことを、“予防補綴”と稲葉先生は名づけ、提唱してきました。
稲葉繁先生と、明海大学歯周病学の教授申先生により書かれた“予防補綴のすすめ”という書籍
もちろん、こういったテレスコープシステムによる治療はすぐにできるわけではなく、咬合理論、印象の取り方、咬合器の取り扱い方、審美の分析など様々な基礎的な技術や知識が必ず必要です。
そういった基礎技術や知識の集大成が、この症例のように18年以上使用されていても、問題なく使用できるようなテレスコープシステムによる治療が出来る様になると、おっしゃられていました。
(午前終了)
(午後前半)
まずは、基本的なパーシャルデンチャーの設計について説明いただきました。
「設計について歯科医師の先生も技工士の先生も学生時代にはあまり習ってこなかったのではないでしょうか」という質問に、みなさんうなずいておられましたが、パーシャルデンチャーには基本的な設計手順がきちんと存在します。
パーシャルデンチャーの設計の際に一番大切で最初に行うのが支持(レスト)の設計であり、クラスプの設計を決めるのは一番最後にするといった設計の順番というのがあり、なぜその順番なのかについて詳しく説明いただきました。
設計の一部スライド抜粋
様々なケースをスライドに出して、その場合どういった設計(大連結子を含め)をしていくかといった説明を実際にされていました。
例えば、RPIクラスプデンチャーの設計の場合、レストの位置→大連結子の形→隣接面版→床の広さなど→クラスプの設計の順序で設計しなければなりません。
また、こういった設計をするうえで、静力学的な設計について学ばなければいけません。
その時、大切になってくるのは、テコの原理を知ることです。
また、3点支持の設計には大連結子の形を学ぶことも大切です。
では、まず大連結子の種類について説明いただきました。
スライドで出てくる上3つはあまり歯を守れる設計にはなっておりません。
その中ですと後パラタルバーは有効です。
おすすめは、あまり聞いたことがないかとは思いますが、シュパルテやトーションバーといった大連結子は歯を守るような設計になっていますので、かなり有効な大連結子だということです。
(午後の後半)
日本の医療制度と、ドイツでの医療制度を比較して説明いただきました。
結論から言いますと、稲葉繁先生は日本の歯科医療の質が低く、顎口腔系を担う歯科医師として誇りをもって質のいい医療を学び実践していかなくてはいけないと強く思われています。
それでは、パーシャルデンチャーの話に戻りますが、28年前に稲葉繁先生が治療され、コバルトクロム-モリブデン-チタンの金属を使ったテレスコープ症例です。
28年前からこんな義歯の治療をしていたと思うと、本当にすごいと思います。
稲葉繁先生の技術を忠実に再現されている、IPSG副会長の岩田光司先生に症例の発表もありました。
テレスコープシステムによる治療は、口腔内だけでなく全身を考慮にいれて欠損治療をすることがとても大切であり、それにはきちんとした診査診断や治療計画がとても大切と強くおっしゃっておりました。
そのため、岩田先生は手順をきちんと踏んで、治療計画をすることにかなりこだわっております。
そして、15年前に行った症例を用いて発表して頂きました。
この症例でもしっかりと咬合診断を行い、咬合平面を整えて治療されたのが、このスライドからもわかります。
治療前の写真
治療前と後の模型を咬合器付着しての比較
なかなか写真では分かりづらいかと思いますが、カンペル平面にほぼ平行に咬合平面を整えた義歯を治療されています。
簡単に説明されていましたが、とても難しい技術です。
また、次のスライドですが、岩田先生の患者さんに袋いっぱいに今まで行ったクラスプデンチャーをもっていらした方がいらしたそうで、その写真です。
これを見ても分かる通り、クラスプのかかる歯が徐々にダメになって、最終的には総入れ歯に近くまで歯を失ってしまっています。
これはやはり、入れ歯のクラスプがセンヌキのような力を支台歯に与えてしまいどんどんと抜いていってしまったのだろうと容易に想像がつきます。
このような状態にならないように、やはりテレスコープシステムによる治療(予防補綴)により今以上に歯を失わないように予防しなくてはいけないと再認識させられます。
岩田先生に講演していただいた症例で、かなり衝撃的な症例がありましたので、少し紹介させていただこうと思います。
まずは初診時の状態をご覧ください。
無計画のまま、治療が施されていたのが良くわかります。
見た目が綺麗かどうか、それだけでもある程度この治療が適切であるかどうかは理解できます。
このような状態を見ると涙が出てきそうです。
患者様は自費(上顎には咬合平面を全く無視したコーヌステレスコープとクラスプのコンビネーション)で義歯も作っていますし、決して質の悪い治療なんて望んでいなかったと思います。
こういった症例を一気に治すのは難しいと思われるかと思いますが、テレスコープシステムを用いればかなりシンプルな状態にでき、さらに綺麗に治すことが可能です。
もちろんそれには色々と知識が必要ですが、しっかりとIPSGで学んだ先生であれば誰でもできるようになると思います。
そして上顎はレジリエンツテレスコープ、下顎はコーヌステレスコープにより岩田先生が治療された写真です。
向かって左は術前、右は術後の写真
この写真を比較して見ていただくとお分かりだと思います、治療後はかなり綺麗でシンプルな状態だと思います。
きちんと咬合診断をし、咬合器上で咬合平面を整えながらテレスコープシステムによる治療を行うことにより、こんなにも良い状態に一気に治療されています。
もう一度治療後の写真をご覧ください。
このような治療を私達歯科医師の標準にしていくことが、日本の医療の質の向上につながるのではないかと私は思います。
また、患者様の健康寿命を延ばす技術になるのではないかと思います。
そして、これからもIPSGは日本の医療の質の向上と患者様に喜んでいただけるような治療の普及に努めていければと思います。
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レポート:稲葉歯科医院 佐藤孝仁先生