Questions歯科治療に関するQ&A
Q:シュトラックデンチャー(シュトラック義歯)とBPSの違いは何でしょうか?
※この質問は、IPSG技工インストラクターの岡部宏昭先生に回答をいただいております。
シュトラックデンチャーと現在のBPSの最大の違いは、義歯の外形です。
BPSでは、排列方法と咬合接触に特化して指導し、その咬合様式(シュトラックのフルバランス)を付与するシステムを、バイオファンクショナルシステムと称しています。
稲葉教授の講義の中では、シュトラック先生の頬筋、口輪筋、舌筋による義歯のサポートの下顎排列の図を何度も目になされていると思います。
日本では、BPSでは、そういったところに触れていません。したがって、サブリンガルルームの活用については皆無です。
Fiedler先生の書かれた「BPS-Totalprothetik」とSchleich先生が関与した本「IVOCLAR Prosthetic System」を見比べていただくと一目瞭然です。
現在稲葉教授の指導されている総義歯とBPSとの違い。
ゴシックアーチ
BPSではセントラルクラッチのナソメーターを使用、稲葉式は歯列上の3点法にて描記。
セントラルクラッチの場合、描記芯と描記盤が口腔内中央に位置するため、舌を後退させなければゴシックアーチを描記することができません。したがって、自ずと下顎後退位にて、描記されます。
舌後退位により、最大2mm程度下顎位は後退すると言われています。
かつて、シュライヒ先生はゴシックアーチのアペックス上ではなく、描記された前方運動上のアペックスから2mm前方に中心位を定めていましたが、現在は描記されたアペックスでバイトを決めています。
舌後退位も必ずしもまっすぐ後方に下がっているわけではなく、右より左よりなどに下げる人もいます。
それにより、左右どちらかに偏移した偏心位になる可能性がとても大きいです。
歯肉形成
BPSではサブリンガルルーム、バッカルシェルフのボリュームがなく、従来通りの歯肉形成をしています。
口腔周囲筋によるサポートを軽視しています。
すでに28年間シュライヒデンチャーを製作していますが、他に勝る方法はないと思います。
原型はシュトラックデンチャーですが、シュライヒデンチャーと称してよいのでは・・・
シュトラック、ベトカー、マルクスコルス、ランディーン、ゲルバー、クラインロック、カーン、そういった先生方の理論を集約したのが、シュライヒシステムであり、かつてのIVOCLAR Prosthetic Systemです。
このあたりは、私もシュライヒ先生の引退時にかなりの資料をいただいています。
追記
中心位の概念に触れましたが、どの勉強会へ行ってもこの部分に触れ、教えているところはありません。
中心位は全ての補綴をするにあたり、原点であると私は思います。
クラスプ義歯は義歯の安定がないから、顎位が異なっていてもどうにか使用できますが、テレスコープはリジットサポートです。
偏心位で製作した場合、壊れる確率は非常に大きくなります。
総義歯の安定は同圧同等沈下です。これは中心位で製作しなければ成り立ちません。
ポーセレンのチップ、人工歯や前装部の片減りなどほとんど顎位によるものと思います。
カリエスの原因なども顎位の影響が大と近年では言われています。
日本において、中心位の概念を正しく指導できるのは唯一無二、稲葉教授しかいらっしゃらないと思います。
技工士も、咬合器に付着した模型が正しいフェースボウとバイトなのか読み取る力を持って欲しいです。
シュライヒ先生、ワット先生、マクレガー先生、クーパーマン先生、阿部晴彦先生などが行ってきた模型計測法を熟知すれば、不可能ではありません。
私は現在、これらの先生の模型計測法を臨床経験から集約し、行っています。
咬合平面という観点から考察すれば、模型計測法は正しいです。
フェースボウ法との一番の違いは、付着位置におけるバルクウィル角の違いです。
この違いは矢状顆路角に影響します。
矢状正中とカンペル平面を読み取れる、カボのアークスフェースボウやイボクラーのUTSフェースボウを使用することにより、やはりフェースボウを使用する意味が絶対にあります。
テレスコープの普及は絶対的に必要です。しかし中心位有りきです。
IPSGつまり稲葉教授からそこの真髄を学ばなければ、この会にいる意味はないと思います。
何人も技工士が私のセミナーや私のところに勉強に来ましたが、作ることだけにしか・・・きれいに作ることだけにしか目が行っていないフィロソフィーを体得しようという心構えの輩がいません。
最近は解剖用語、専門単語すら知らない若い技工士がいます。
日本の歯科界はこれからどこへ行くのでしょう・・・。
IPSGの先生方は、顎位の中心位を体得して、歯科界の中心医へ!
岡部宏昭