Seminar reportセミナーレポート
’13 11/17(日) 筋機能療法セミナーが開催されました
こんにちは。稲葉由里子です。
11月17日に行われた稲葉繁先生と飯塚会長との筋機能療法セミナー。
レポーターは、だんだんレポートが板についてきた稲葉歯科医院勤務の佐藤孝仁先生がお届けします。
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昨年から始まった好評の筋機能療法1dayセミナーが行われました。
タイムスケジュールは、午前中に稲葉繁先生による筋機能訓練についての講義、午後に稲葉先生が筋機能訓練用に考案されたラビリントレーナーを実際に臨床にどのように取り入れているかという講義と実習をIPSG会長の飯塚能成先生に行って頂きました。
※ラビリントレーナーという言葉は初めてお聞きの人が多いかと思いますが、それについては後程出てきますのでご安心ください。
それではセミナースタートです。
今回の実習の午後に使用する材料です。
まず、筋機能療法の講義をするにあたり、マイオファンクショナルセラピー(筋機能療法)についてです。
昔、あまり日本では筋機能療法は行われておらず、昭和56年に『口腔領域の筋機能療法』(著書 ダニエル・ガーリナー)という本が翻訳され出版され始めたのが日本ではほぼ最初だそうです。
そして、なんと稲葉先生はそれ以前から、マイオファンクショナルセラピー(筋機能療法)を行っていたそうです。
その経験から、日本での筋機能療法の歴史から始まり、現在はどのような筋機能療法が行われているかという貴重なお話がありました。
特に、赤ちゃんの哺乳行動がとても大切ということがとても興味深いお話でした。
赤ちゃんは本能的に哺乳行動を行いますが、それにより顎口腔系の正しい使い方をまず覚えるそうです。
舌の使い方、口腔周囲筋の使い方を正しく行えることが、将来きれいな歯並びやきちんとした鼻呼吸が出来るようになります。
しかしどうでしょう、お母さんのおっぱいが出にくかったり、忙しくておっぱいを赤ちゃんに与えられなかったりして、どうしても哺乳瓶を使うことがあります。
正しい哺乳瓶を使用していればいいのですが、赤ちゃんが一生懸命に哺乳瓶のニップルを吸わなくてもミルクが出てきてしまうような哺乳瓶を使用している場合は、正しい舌の使い方を学ぶことができません。
これが、不正な舌の使い方になってしまいます。
そして、それが将来的にバラバラな歯並びであったり、口呼吸になってしまったりの原因になってしまいます。
また、高齢になってからの不正な舌の使い方も問題です。
飲み込んだ食べ物が気管に入ってしまう誤嚥という行動を起こしてしまいます。
現在、死亡原因の第3位である肺炎の80%は誤嚥性肺炎といって飲み込み時のミスによって起こりますが、それは不正な舌の使い方によって生じていきます。
こういった様々な悪影響を及ぼす不正な舌の、口腔周囲筋の使い方を正常に戻していくのが、マイオファンクショナルセラピー(筋機能療法)だということです。
そして、いよいよ午前中の講義の開始です。
講義のポイントは大まかに2つでした。
1つ目は、『良い歯列の第一歩は哺乳行動から』、大切なので何度も稲葉先生が強調されてご説明されていました。
また、赤ちゃんはお腹の中から指しゃぶりをして哺乳行動の練習をしていくそうです。
哺乳行動で正しい舌と口腔周囲筋の使い方を覚えます。
そのため、良くない哺乳瓶を使用するとなぜいけないのかということをスライドでわかり易く説明して頂きました。
また、日本と海外のおしゃぶりの使い方の違いを説明されていました。
海外ではなんと舌と口腔周囲筋の訓練のために6才までおしゃぶりをして訓練をさせることもあるそうです。
それくらい海外では、筋機能訓練の大切さが広く伝わっているということですね。
2つ目は、ずっと前から稲葉先生が行われている実際の筋機能療法の説明です。
まず、どういった舌の使い方が正常で、どういった舌の使い方が不正かの説明をスライドを用いて説明されました。
その後、舌癖の患者様の口蓋皺壁での診断方法から始まり、リマインダーマーク法、等尺性筋機能訓練、家庭療法の仕方など様々な説明をしていただきました。
これは35年前の写真だそうですが、ほんとに前から行われていたのですね。
稲葉繁先生はこういった、いろいろな経験を繰り返し、筋機能療法が現在までにどう変化し、今の診療にいかされているかというお話を午後、IPSG会長の飯塚先生に講義していただきました。
そして午後の講義です。
飯塚先生は長年筋機能療法による介護にかなり力を入れておられます。
先生は医院のある埼玉県で幅広く活躍されており、病院・介護施設等での患者様はもちろん、病院や施設のスタッフへの筋機能訓練の指導にあたられています。
その筋機能療法の中心はラビリントレーナーというトレーニング器具による舌や口腔周囲筋の訓練です。
それにより、呼吸の仕方や嚥下の仕方などを改善していきます。
そもそも、海外では赤ちゃんはおしゃぶりによって、舌や口腔周囲筋の訓練を行いますが、成人となりますとおしゃぶりはできませんので、このラビリントレーナーがおしゃぶりの代わりになるものなのです。
つまり、大人の嚥下と呼吸の改善のために使用します。
※ラビリントレーナーを開発したIPSG稲葉繁先生が試作品を持っているスライドを説明しています。
まずは、嚥下についてですが、嚥下は赤ちゃんの哺乳行動を知るとわかり易いです。
そのため、まずは母乳による授乳がいかにすごいことなのかの説明です。
このように、授乳時は口だけでなく、足の指などピンとさせておっぱいを飲みます。
つまり、赤ちゃんは全身行動により授乳します。
また、このおっぱいによる授乳は哺乳瓶のなんと約50倍もの力を使うそうです。
この数字や今までの説明を聞くと、授乳がいかに口腔育成に関与しているのかが明らかですね。
さらに、母乳による授乳は20分ほどかけて行います。
それくらいかけて授乳できるような哺乳瓶の使用が大切だと念を押されていました。
そこで、一端、嚥下の実習です。
5つの実習を行い、嚥下とは何かについて説明して頂きました。
実体験で嚥下について学ぶとより一層理解が深まったと思います。
飯塚先生は呼吸機能、嚥下機能の改善により消化器系はもちろん自己免疫系を向上させていきたいという志のもと診療にあたられています。
呼吸機能や嚥下機能はとくに舌の使い方や筋力や口輪筋の封鎖にかなり影響してきます。
舌圧や口唇圧が上がることにより、鼻呼吸への改善、嚥下機能改善はもとより様々な問題が解決できるようになりますといったいくつもの症例を出されていました。
特に脳血管障害、胃瘻、アルツハイマー、認知症、筋無力症、喘息などの患者様の様々な改善症例には本当にびっくりです。
歩けなかった患者様が歩ける、発音障害がある方が発音できるようになるなど本当に不思議だと思うことが起こります。
受講生の先生方はみな、まだまだ口腔周囲は未知数だなと感じられたと思います。
また、小児の口呼吸についても講義されていました。
小児の歯肉炎、口臭、舌の圧痕炎症などの改善症例なども交えながら筋機能療法についてご説明いただきましたが、これは本当に私も興味深い内容で聞き入ってしまいました。
このセミナーを受講された先生はとてもラッキーだと思います。
これからの診療の幅が広がるような内容であったと思います。
それでは、いよいよ実習です。
最初は哺乳瓶とおしゃぶりの実習です。2社を比較します。
まずは、NUK(ヌーク)のニップルで水を飲んでいただきます。
次に、国産某社のニップルで水を飲んでいただきます。
ここでは書きませんが、参加された先生方はどちらが舌や口腔周囲筋の訓練になるのかが明らかだと感じられたと思います。
次は、おしゃぶりの比較です。同じ2社で比較しました。
実際に咥えてみるとかなりの違いにビックリされたと思います。
これもどちらが口腔の育成にいいか咥えてみればわかると思います。
ラビリントレーナーの実習です。
ラビリントレーナーのトレーニングはただやればいいというわけではありません。
今まで飯塚先生が多くの患者様をみた結果、ラビリントレーナーを効果的にする体操があります。
それをもとに受講生に体験していただきました。
コナミスポーツで販売されているラビリントレーナーの中にも説明書はありますが、それとも少し異なっています。
ラビリントレーナーを医院で行う上で、症状の改善という主観的な変化が大切ですが、客観的にトレーニング前と後の評価をしなくてはいけません。
その評価に、舌筋力計を使い舌筋力測定とボタンプル測定を行います。
実習後も1時間ほど飯塚先生の症例とドイツの介護施設についてご説明していただきました。動画での症例ですので、このレポートではお見せすることが出来ないのが残念です。
来年ものこのセミナーは行われると思いますので、どうぞ来年、もしくはご興味のある方はIPSGまでご連絡ください。
午前と午後と筋機能療法についての講義と実習でしたが、これからの歯科医療は齲蝕の処置、歯周病の治療といったことだけではなく、筋機能療法が非常に大切になってくると思います。
なぜこれから大切になってくるのか、そういったことを学べる本当に貴重な講演であると思いますので、次回はぜひ自院のスタッフと共にご参加いただければと思います。
(レポート:佐藤孝仁先生)
如何でしたでしょうか。
筋機能療法のセミナーは現在1年に1回しか行っていませんが今後お披露目する機会が増えればと思います。
ご参加頂いた皆様、そして講演して下さった稲葉先生、飯塚会長、そして超大作なレポート書いてくださった佐藤先生、有難うございました。
稲葉由里子